ハマグリ

毎年、ハマグリを獲りに行くんですけどね。場所は千葉の某潮干狩り場です。

まあ外房の九十九里あたりはハマグリが獲れることで有名ですが、あちらは胸のあたりまで海に入って獲らなきゃならない。第一、遠いです。で、東京湾に面した場所でも、ハマグリは獲れるという情報を得て、3年前から調査に乗り出したわけです。

だいたい、潮干狩りと言えばアサリが相場なんですが、時々ハマグリが獲れたりする場所はわりと知られてます。でも、そんなことじゃあ面白くないと、アサリとハマグリでは食材としての格も味わいも全然違うと。そこで、ハマグリが獲れたというネットの情報などを参考に、いくつかの潮干狩り場を回ってみたわけです。

そうしたら、運良く3回目にいまの場所に巡り会ったわけです。おおよそ、ハマグリの居そうだろうと思われる地点を掘ってみたら、もう最初から大漁ですよ。1人2kgのハマグリなんて、生まれて初めてです。しかも、食べてみれば滅茶苦茶おいしいとくれば、これはハマります(洒落じゃないですよ、念のため)。

でかいのは焼きハマですね。もう熱々のプリプリ。獲れたてですから、身の弾力とジューシーさはお店で売っている物とは別物です。次は酒蒸しで1杯ですね。残ったのは大鍋でクラムチャウダーにするわけで、濃厚な出汁には悶えるほどです。2日間は楽しめます。もうハマグリなんか見たくない状態ですね。

しかも。ハマグリには血圧やコレステロールを下げ、肝機能を高めるタウリン(ファイト一発ですね)を多く含んでいるのをはじめ、粘膜を保護するビタミンB2、貧 血予防に効くビタミンB12や鉄、カルシウム、亜鉛などが豊富ですから、いやもう中年カップルがおやじが食べるには最高の食材ですよ。ちなみに国産モノの流通価格はkgあたり3,000〜5,000円だそうですな。潮干狩りの入場料は1,500円ですw

で、なんで東京湾でハマグリなんだと。どうしてハマグリがいっぱい獲れるのかと。アサリにしてもそうですが、基本的に稚貝を播いて畜養しているわけです。これは漁協の立派なお仕事で、自分たちの水揚げと、観光資源としての収益の両面を考えているわけです。まあ、アサリがそうなんだから、高級なハマグリが天然なわけがない。

それどころか、日本の天然ハマグリは絶滅の危機に瀕しているのが現実で、漁獲高が激減しているのが最近の傾向だそうで、スーパー等で売っているハマグリのほとんどは中国産の輸入ハマグリでございます。このシナハマグリは国産に比べると、粒が小さくてお安いわけです。国産の大粒は大変お高い場合がほとんどです。さらに、国産ハマグリにも種類があるというのは知りませんでしたよ。

日本のハマグリには「ハマグリ」と「チョウセンハマグリ」の2種類があって、ハマグリは内湾、チョウセンハマグリは外洋に面している海岸に分布しているそうです。基本的にはどちらも同じハマグリなんで、パッと見は分からないものの、調べてみると微妙に違うわけです、これがまた。

下の画像は今回の収穫の一部なんですが、よく観察してみると確かに違うんですね。まず、チョウセンハマグリは色が薄く白っぽい。そして、決定的に違うのは、丸みを帯びたその形状ですね、ハマグリの方が円に近く、チョウセンハマグリは少し偏平しているわけです。調べてみたら「あ、本当だ」と。

ちなみに大きさなんですが、今回の7.5cmは新記録です。いやもう、掘った時の手応えといい、重さといい、別格でしたね。これまでの最高記録は7cmでしたが、だいたいこのサイズで5年モノですね。画像でもお分かりのように、殻にある成長線のような筋から考えると、今回のビッグワンは、6年モノにさしかかった個体ではないかと思えます。

この2種類の国産ハマグリ、実は中身も微妙に違うんですよ。ハマグリは全体的に身が白っぽいのに対して、チョウセンハマグリは足の部分が少し黄色っぽい。味も違う。ハマグリの方が甘みが強く、肉も軟らかい。対してチョウセンハマグリは微妙に硬く、味もなんとなく単調な感じがするわけです。これまで「どうして同じハマグリでも、微妙に味や舌触りが違うのか?」と思っていたわけですが、そういうことだったんですね。

このように、内湾のハマグリに劣るという意味で、外海のハマグリはチョウセン=朝鮮の名前がついたという説と、丁線(波打ち際。本来は汀線=テイセン)にいるからという説があるわけです。でもまあ、日本周辺のハマグリには5種類あって、国産の2種類に、先ほどのシナハマグリ、台湾ハマグリ、シロハマグリという名前ですから、まあ丁線の字は後付けでしょうね。

結局、東京湾でハマグリが獲れるのは、絶滅の危機に瀕している国産ハマグリを、それも江戸前のハマグリを復活させようという、千葉の某漁協のここ10年くらいの努力の成果だという話です。おそらく、あたしが獲っているハマグリは、その漁協が畜養したモノが移動し、居心地の良い場所に定着して育ったものだと思います。何でもハマグリは一晩に数100m移動するほどアクティブだそうですが、環境が変わらない限りだいたい居場所は一定だと。

だから、あたしが行く場所はいつも同じなんですよ。アサリを獲っている家族連れなんかは、ハマグリのことなんか知らないから全然来ませんよ。ほんと、あたしのようなマニアがちらほらいるだけ…だったんですが。今年はなんだか人が多い。それも、おおよそハマグリハンターらしからぬ出で立ちの一般人風。

したらば、漁協のおじさんが「今年はさ、あんたらの行くところに、一目散に行く客が増えたんだよ。なんだっけ、ほら…あ、ツイッター。あれでつぶやいた奴がいるんだよ」とおっしゃるわけですよ。いやもう、気絶しそうでした。ついにここまで来たかと。

そういう場所は教えないのが、大人の遊びでは暗黙の了解なんですけどね。後先かまわず得意げに実況したんでしょうね、「ハマグリなう」とか言っちゃって。“馬鹿発見器”とはよく言ったもんです。本当にありがとうございますた。