今回はダイエット日記ではございません。
政府はとりあえずTPP参加決定を先送りしたようですね。あんなのもの参加してもらっても困るんですけどね。日本の国力がますます低下するわけで、それが奴らの狙いではあるんですが。で、なんでTPPがヤバいのか。
私たち下々の者どもにはロクな説明もないわけで、いまいちピンッとこないわけです。お米がどうだとか、第一次産業がどうだとか、細かいディティールでの議論もありますが、全体的な話があまり聞かれないわけです。まあ、簡単に言えば、TPPは資本家による統制と搾取をより強化するための手段ですね。
あたしが大好きなドキュメンタリー映画で、フード・インクという作品があります。2008年の製作なんですが、現代のアメリカにおけるフードシステムの実態を描いた、非常にセンセーショナルな内容で、欧米では注目された作品です。
何がスゴいかって言うと、ファストフードを始めとした大量消費に向けた食糧生産の効率化の実態を描いている点ですね。
ちょっと前に話題になった、ピンクスライムミート=ハンバーガーのパテが、どのような生産工程で作られるか? たぶん、それを初めて公のものとした作品ではないでしょうかね。いやもう、強烈です。O-157を殺すために、肉をアンモニア消毒するわけですよ。
なんでO-157かというと、牧草ではなくコーンが中心の配合飼料を牛に食べさせるていることが、この凶悪な細菌が繁殖する原因だという話です。
で、10年くらい前に全米ではハンバーガーを食べて、O-157に感染して死人がたくさんでたんですね。だから、消毒しちゃえば大丈夫じゃんって話です。なにしろ1枚のパテは、いろいろな牛150頭の肉がごちゃまぜになってるそうですから、いちいちチェックしてられないと。
その他にも色々と出てきます。農薬メーカーのモンサントが、遺伝子組み換え作物でアメリカの穀物生産を牛耳っているわけですが、彼らの方針に従わない誠実な農民が、陰湿な手口で廃業に追い込まれていく様子とか。食肉メーカーの処理工場で不法滞在外国人労働者(主にメキシコ人)が、使い捨ての奴隷のごとく扱われている事実とか。
問題はここです。
なんで彼らは入国管理局や警察に怯えながら、過酷な労働環境で働き続けるのか。地元で仕事がないからですね。彼らの大半は、関税自由化でアメリカ産の安いコーンがなだれ込んだために、職をなくしたメキシコの農民なんですよ。
不法入国ゆえに過酷で低賃金の仕事に甘んじるか、危険きわまりないが高給のドラッグビジネスに関わるか、それしか選択肢がない。実はこれが、メキシコの麻薬戦争を国内紛争レベルにまでエスカレートさせている大きな要因というわけです。
そして、こういう“システム”の根本にあるのは、資本主義を超越した拝金主義だと言うことです。巨大資本の金儲けのためには『命』や『精神』は邪魔になるんですね。
家畜を物に、農家や生産者を奴隷に、そして消費者を犠牲にすることで、薬品まみれの安い食物が堂々とまかり通っている。なにしろ、金にモノを言わせた企業のロビー活動は強烈で、議会や裁判所、FDAなどには食品関連企業のOBがゴロゴロしているというわけです。
で、TPPといった国際的な関税撤廃化は、こういった巨大な食料資本の活動範囲を拡大するための手段のひとつであることが、この作品から理解できるというわけです。
結局、食べ物と言う直接的な方法と、政治と言う間接的な方法の2方向から、あなたや、あなたの子供の将来は非常に危機的な状況に追い込まれようとしているわけで、この作品には近い将来の日本の姿が描かれている可能性もあるわけです。
日本では殺人ユッケなんて事件もありましたね。あれもまあ、O-157の付いた肉をいい加減に扱ったわけですが、生肉を禁止すれば良いって問題じゃない。根本原因は、なんだか分からないような肉を、なんだかわからない人間が調理し、なんだか分からない客が食べたことにあると思います。
そこにあるのは、悪意によって仕向けられた無関心による無知ですよ。だいたい、生食用の和牛肉が280円だかなんだかで、食べられるわけがない。それが「おかしい」と思えないのが「おかしい」わけです。
安ければ良いのか。便利なら良いのか。そういう食べ物がどうやって作られているのか、知っておいたほうがいいと思いますよ。これはアメリカだけの話ではないんです、日本でもやっていることは大して変わらない。
食肉生産の実態なんか知ったら卒倒しますよ。死にたくなかったら安い肉(とくに加工肉)は、本当に止めておいたほうがいいですよ。まあ、高いのもヤバいんですけどね。松阪牛の肥育場を見てからは、霜降り=脂だらけの肉は食べないようにしています。
このような事実に対するアンチテーゼとして、この作品にはヴァージニア州のポリフェイス・ファームという有名な自然農法の農場が登場します。
ここのオーナーのジョエル・サルティンって人が、これまたスゴくカッコいい大将で、言うこと成すこといちいち筋が通っていて迷いがない。一種の天才だと思います。その確固たる生産哲学や、農場の風景に、あたしは感動して涙が出ましたよ。
この大将は「経済はエコシステムを犠牲にした。世の中は“メカニカル・フード”ばかりだ。でもここでは、エコシステムで家畜を育ている」と言い、牧草を“牛のサラダ・バー”と呼び、鶏は自分のところで絞めている。まあ、そこにあるのは昔の日本では当たり前だったはずの風景なんですけどね。
こういうスタイルを真似ることは、なかなかできないでしょうが、想い描くことはできるわけです。どうすれば、世の中がそういう方向に向いて行くのか。そのくらいのことは、もしかしたらできるんじゃないかなとも思うわけです。
そのためには、毎日の生活の中で何を選ぶのか、何を必要とするのか、ひとりひとりがはっきりした選択をして、そういう声をあげ続けていくことが大事なんだと思うわけです。
しかし、メカニカル・フードとは言い得て妙です。この作品を観ると本当にそう思いますよ。
フードインク公式サイト
ポリフェイスファーム/USA TODAY